令和8年熊本地震 / JMAT現地記録

現地で見えたことが、DocTalkの災害支援を変えた。

2026年8月、福岡県医師会JMATの一員として熊本県宇城市で4日間活動しました。発災から約3週間後の現地には、避難所の支援体制、生活環境と健康のつながり、避難所の外で過ごす人の見えにくさ、そして被災しながら地域医療を支える医療機関の姿がありました。

派遣前、避難所内でもオンライン相談を活用できるのではないかと考えていました。しかし、現地を見たことで、その考えは変わりました。

この経験から生まれた災害時医療ナビゲーションを見る →
体育館の床に間仕切りや生活用品が並び、支援スタッフが活動する避難所の様子
2026年8月、令和8年熊本地震のJMAT活動時。避難所の生活環境と支援活動。現地での経験が、DocTalkの災害時支援を見直すきっかけとなりました。

この記録について

本ページは、福岡県医師会JMATの一員として活動した医師・内田考紀が、4日間の活動記録と現地での観察をもとにまとめたフィールドレポートです。現地で確認した事実、医師として考えたこと、DocTalkの設計への反映を分けて記録します。

JMATや派遣元病院の公式見解ではありません。活動した期間・場所で確認できた範囲に基づくもので、被災地域全体の状況を一般化するものではありません。

災害
令和8年熊本地震(2026年7月28日発生)
派遣元
福岡県医師会JMAT
活動期間
2026年8月17日〜20日
活動地域
熊本県宇城市
主な活動場所
宇城広域調整本部、市内防災センター、宇城市内の被災地域診療所
チーム構成
医師1名、看護師2名、臨床工学技士1名

発災から約3週間後、4日間で見たもの

急性期を過ぎても、避難生活の長期化、断水、感染症、暑熱、心理的負担、地域医療の継続など、災害医療は続いていました。

  1. 1日目

    現地入り・状況把握

    宇城広域調整本部・市内防災センター

    前隊から情報共有を受け、断水や自宅の片付けの難しさなど、避難生活が長引く理由を確認。地域の医療機関や透析施設の送迎支援など、すでに機能している支援を把握し、マット交換等の環境整備にも関わりました。

    屋内で情報共有するJMATの支援スタッフ
    2026年8月17日、現地入り。前隊からの情報共有と状況把握。
  2. 2日目

    避難所支援

    市内防災センター

    夜間利用者などの把握の難しさ、生活環境による転倒リスク、多職種での心理支援を確認。巡回診療と情報共有、深部静脈血栓症(DVT)評価への連携を経験し、在宅避難者の情報・移動の課題にも触れました。

    避難所で血圧測定に対応する医療支援スタッフ
    2026年8月18日、市内防災センター。避難所での医療支援。
  3. 3日目

    地域診療所支援

    宇城市内の被災地域診療所

    診療支援に加え、散乱した紙カルテや院内の整理など復旧支援に関わりました。医療者自身も被災しながら地域医療を支える状況や、避難生活中の方の感染症発症に伴う情報伝達の課題を経験しました。

    被災地域診療所で棚や院内の整理に取り組むスタッフ
    2026年8月19日、宇城市内の被災地域診療所。診療を続けるための院内整理。
  4. 4日目

    引継ぎ・帰還

    熊本県内・派遣元への帰還

    後続隊へ活動内容と未解決の課題を引き継ぎ、派遣を終了しました。現地経験を、次の支援設計にどう残すかを考える起点となりました。

現地で見えた4つのこと

DocTalkの災害支援を考え直すうえで大きかった4点を、現地で確認したことと、そこから考えたことに分けて記載します。

01避難所内には、すでに支援と情報共有の系統があった

現地で確認した事実
今回活動した避難所では、災害支援ナースの常駐、多職種間の情報共有、巡回、要配慮者の申し送り、感染症対応の協議、DVT精査チームへの連携など、複数の支援者が役割を分担しながら動いていました。
医師として考えたこと
避難所内にDocTalkが独立したオンライン相談窓口を重ねると、現地スタッフが把握していない相談が別系統で発生し、情報の分断や二重管理につながる可能性があります。通信や充電、プライバシー確保も、オンライン相談を前提にできる環境とは限りません。
DocTalkの設計への反映
避難所内の健康・医療課題は、原則として現地の医療・保健スタッフを優先する。DocTalkは、現地の指揮・情報共有系統に割り込む独立窓口を目指さない。
会議室に集まり情報共有する複数の支援チーム
2026年8月、宇城市内の避難所。複数の医療・保健スタッフが連携し、情報を共有しながら支援していました。

02健康問題は、生活環境から切り離せなかった

現地で確認した事実
発災から約3週間後も断水が続き、トイレの使いにくさが移動や転倒のリスクにつながる場面がありました。寝床、暑さ、食事や食品保存、清掃・洗濯、感染症、睡眠や心理的負担など、生活環境そのものが健康に影響していました。
医師として考えたこと
「症状は何か」だけを聞いても、災害時の健康問題の全体像はつかめません。被災後に生活がどう変わったか、何が服薬・受診・睡眠・移動を妨げているかを一緒に見る必要があります。
DocTalkの設計への反映
症状・持病・薬だけでなく、避難先、食事・水分、睡眠、移動手段、通院を難しくしている事情など、生活情報を含めて整理する。
避難所の屋外に設置されたシャワー等の生活支援設備
2026年8月、JMAT活動時。断水や避難生活が続くなか、衛生を保つための生活環境の整備も必要でした。

03避難所の外にいる人ほど、支援側から見えにくくなり得た

現地で確認した事実
避難所では、夜間だけ利用する人、未登録の利用者、車中泊の人など、実際に「誰がどこにいるか」を把握しにくい場面がありました。また、トイレ、ペット、自宅の片付けなどを理由に避難所を利用せず、在宅で過ごす人も確認しました。
医師として考えたこと
避難所の外にいることは、困っていないことを意味しません。掲示、巡回、支援者との会話などの接点が減ることで、健康問題や医療アクセス上の困りごとが支援側から見えにくくなる可能性があります。
DocTalkの設計への反映
在宅避難・親戚宅・車中泊・ホテル避難など、避難所外で生活する人と家族を主対象にする。検索、生活動線、家族など複数の入口から自力で到達できる設計にする。
田畑の向こうに家屋が並ぶ被災地域の景観
2026年8月、被災地域の生活環境。避難所の外にいる人ほど、健康や医療の困りごとが支援側から見えにくくなる可能性があります。写真は特定の在宅避難者を示すものではありません。

04地域医療機関も、被災の当事者だった

現地で確認した事実
宇城市内の被災地域診療所では、診療支援だけでなく、散乱した紙カルテや院内の整理など、診療を続けるための復旧支援にも関わりました。医療者自身やその家族・スタッフも被災している状況で、地域医療を支え続けていました。
医師として考えたこと
「いつもの病院が使えない」「避難先から遠い」「受診したいが移動手段がない」という形で、平時の医療アクセスが途切れます。医療機関が存在することと、本人がそこへたどり着けることは同じではありません。
DocTalkの設計への反映
受診の必要性、候補となる診療科・医療機関、受診時に伝える情報を整理する。ただし医療機関への連絡・予約・受診可否確認は本人・家族が行い、DocTalkは受け入れを保証しない。
被災地域診療所で棚や院内の整理に取り組むスタッフ
2026年8月19日、宇城市内の被災地域診療所。診療を続けるための院内整理。

派遣前の仮説はどう変わったか

変わらなかったのは、「診療を代替せず、情報と意思決定を整理することで、必要な医療への一歩を支える」という考えでした。一方で、「誰に」「いつ」「どこから」届けるかは大きく変わりました。

現地経験を受けた支援設計の見直し
論点派遣前の仮説現地経験後の再設計
対象被災者全般。避難所内での利用も想定避難所外・分散避難者とその家族を主対象とし、避難所内は現地支援を優先
時期災害時に広く利用可能な相談窓口発災直後の急性期ではなく、亜急性期から復旧・復興期を中心に
入口Web・LINEのオンライン窓口を設置検索、生活動線での周知、家族、地域のキーパーソン等からの複数の入口
避難所との関係既存支援の前段階をオンラインで補完独立窓口を重ねず、現地の支援・情報共有系統を優先
医療機関との関係「医療へつなぐ」表現を想定受診意思決定と候補整理まで。連絡・予約・受診可否確認は本人・家族
成果物受診前情報の整理医療情報、被災後の生活変化、相談事項を災害時受診サポートシートとして整理

既存の支援を尊重し、
その外側の空白に集中する。

仮説が変わったことも、現地から得た大切な経験です。支援を増やすことだけではなく、すでにある支援とどう役割を分けるかを考えるようになりました。

この経験から、現在の支援を設計しました

医療や支援が存在していても、避難所の外にいる、移動できない、情報が届かない、何を伝えればよいか分からない。そうした理由で、必要な医療への次の一歩が止まることがあります。

DocTalkは、亜急性期以降、主に避難所の外で生活する方とそのご家族が、必要な医療へ自ら向かうための「第二の入口」をつくることを災害時支援の役割としました。

01

今の状況を整理します

症状だけでなく、生活と医療へのアクセスまで。

02

次の行動を整理します

受診するかどうかを含め、一人では決めにくいことを一緒に。

03

受診先・相談先の候補を整理します

いつもの医療機関に行けないときの選択肢を。

04

受診時に伝える内容を整理します

混乱していても、必要な情報が伝わる形へ。

診療・処方・救急対応・医療機関への予約代行は行いません。必要な医療へ向かう前段階の情報整理と意思決定を支援します。

写真で残す現地記録

生活環境、支援者の活動、地域医療を続けるための復旧。写真を、現地での観察を伝える記録として残します。

著者・注記・参考資料

この記録の位置づけ

  • 本ページはJMATまたは公立八女総合病院の公式見解ではなく、医師個人の経験・考察をまとめたものです。
  • 記載内容は活動期間中に確認した範囲に基づき、被災地域全体の状況を一般化するものではありません。
  • 患者・被災者を特定できる情報は掲載しません。
  • 医療機関・交通・支援制度などの状況は変化します。現在の支援情報は常設の災害支援ページをご確認ください。

参考資料

  • 公立八女総合病院「令和8年熊本地震におけるJMAT活動報告書」2026年8月(院内資料)
  • MYTH WORKS / DocTalk「災害時医療ナビゲーション構想 Version 0.2」2026年8月25日(内部資料)